異文化理解力を高める効果的な1冊
訪日外国人が、日本旅行に際して抱える不安の一つにコミュニケーションの問題があります。英語が通じるかどうか、といった言葉の運用の問題は大きいですが、もう一歩踏み込んで、外国人が持つ価値観に対する配慮や理解が土台にあれば、相手との意思疎通もよりスムーズになり、引いては日本の印象が良くなることにつながります。
異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養
著者は、パリ在住のアメリカ人でフランス・シンガポールのビジネススクールで教鞭をとってきた経験から、様々な出身のビジネスマンとのコミュニケーションで生じたケーススタディーが豊富です。日本人に対する示唆も多く含まれていることから、読みながら当事者意識を持ち続けることができます。
本書の一番の功績は、ビジネスを進める上で関連が深いと思われる8つの軸と、国籍でクロスしたグラフです。インバウンド関連のニュースは、訪日人数〇〇万人、増加、減少といった大口のトピックになりがちですが、お客さんとの関係は、どこまで行っても1対1です。日本とアメリカに限らず、中国、オーストラリア、イギリス、フランス、イタリア、ドイツといった国々にも焦点を当てることで欧米豪の優良顧客の価値観が学べ、彼らの訪日に備え知識武装ができます。
ここではビジネスに関連が深い8つの項目に分け、それぞれ両軸を設けて各国がバロメーターのどの位置に属するか見比べることで、相手国との価値観や考え方の違いがわかります。
異文化メーター
- コミュニケーション:ローコンテキスト ↔︎ ハイコンテキスト
- 同僚・部下の評価:直接的 ↔︎ 間接的
- 説得のポイント:原理重視 ↔︎ 事例重視
- 権力の構造:平等主義 ↔︎ 階層主義
- 意思決定の特徴:トップダウン ↔︎ 合意志向
- 信頼構築のプロセス:タスクベース ↔︎ 人間関係ベース
- 効果的な議論:対立重視 ↔︎ 対立回避
- 時間感覚:固定的 ↔︎ 流動的
上の図は、コミュニケーション分野における言語の分布図です。(*一部、わかりやすくするためイラスト等を追加しています。)アメリカ人と日本人は、国の歴史の長さや多様性の観点からこれだけの距離が生まれています。私たちから見ると、英語圏の文化は一括りにまとめてしまいがちですが、歴史の新しいアメリカと歴史の長いイギリスでは、共有する文化や多様性の程度も異なることから似て非なる国民同士と捉えることができます。
実際、アメリカでは頻繁に使われる「Have a nice day」という慣用句はイギリスで使用されないため、イギリス人からすると、いちいち命令口調で言わなくて良いよ、と感じることもあるようです。
私自身、アメリカで社会人生活をスタートしてから、日本との文化の違いに頻繁に驚くことがありましたが、逆に日本に帰国してからは日本の職場における人間関係やコミュニケーションに対して規範からズレていることに気づかず、戸惑うことが多々ありました。
言葉は、その国の文化が結晶化されています。
日本人や中国人は、住所を記載するとき、東京都渋谷区1-2-3- / 浙江省杭州市1-2-3、最後に番地が来ます。西洋人は、番地から入って、1-2-3 .., USA と番地から書きます。
これは物事を全体像から把握して、詳細に入っていくのか、特定の場所から全体を把握していくのか、といった2つの異なったアプローチを浮き彫りにしています。残念ながら本書では、この軸におけるバロメーターがありませんでしたが、言葉を見るとその国民が色濃く反映されているようで面白いです。
異文化リテラシーは、グローバルで仕事をする上ではもちろん、インバウンドに関わる方にも必読です。