パソコン離れが進む中国人を動かす効果的な広告戦略とは
中国の急速な経済成長に伴い、2015年時点で、既にインターネット広告費はテレビ広告費を上回り、マスメディアよりも影響力のある広告媒体となりました。この傾向は一層加速すると予想される中で、今中国で注目すべき広告のトレンドをご紹介しましょう。
中国の媒体別広告費の推移
検索エンジン連動型広告、Web掲載型広告は今でも基本的な広告手段
中国国内の代表的なオンライン広告は、検索エンジン連動型広告・Webサイト掲載型広告・ニュースメディアに挿入するこれまでの広告手法は健在です。もう一つは中国のインフルエンサーを通じて、その膨大なフォロワー数に向けて、「さりげなく」サービスや商品を紹介する広告手法が新たなトレンドです。日本ではあまり好まれない手法ですが、中国ではKOL(Key Opinion Leader) マーケティングという概念が存在し、多くの企業が好んで利用しています。その他、ゲーム・スマホアプリで動画やバナーで挿入するという方法があります。
1. 百度 検索エンジン連動型広告
中国では、百度、アリババ、テンセントの3社はネット3大巨人と言われていますが、特に、「百度」は6 億人のユーザー数を持つ中国の検索エンジンの最大手です。
中国検索エンジン最大手:百度
百度の検索結果は、広告を優先的に表示します。例えば、中国語で「日本留学」を検索すると、ページの一番上に表示されるのは語学学校の広告です。1ページで合計15件の結果が表示され、そのうち5件が広告になります。
「日本留学」の検索結果ページ
資金が潤沢な大手企業は、主要メディアにバナー広告もしくは画像で広告する手法も一定の支持を得ています。日本では、Yahoo!のトップページに掲載されるような広告手法です。
2. 大手新聞社に掲載するバナー広告
「中国新聞網」の掲載広告
3. インフルエンサー広告
近年、スマートフォンの普及によって多くの中国人はパソコンから離れが進んでいます。インターネットの全トラフィックを接続端末別に分析したところ、中国はパソコンからの接続が年々減少し、2018年1月時点でスマートフォンが61%を占めています。一方、日本では中国に比べるとまだまだパソコンからのアクセスが過半数を超えているのが現状です。
インターネットの接続端末別トラフィック比較(中国と日本)
スマホ中心の生活を送る中国人に対し、広告媒体として活用できるのは2つのコミュニケーションアプリ、微博(Weibo)と微信(WeChat)です。
微博(Weibo)は、中国版Twitterとも言われるアプリで、情報の発信、ユーザーのフォロー機能があり、特に10代~30代の中国人の若者に好かれ、現在では3.76億のユーザーを持っている大手SNSサービスです。
影響力のある人気ユーザーは数万~数十万のフォロワーもいます。
微博(Weibo)月間利用者数(MAU)の推移
2つ目の中国最大手SNSサービスは、微信(WeChat)です。微信(WeChat)はテンセントが運営している総合的チャットアプリです。日本で言うと、LINEのような日常生活に不可欠な存在です。
テンセント2018年度の報告によると、微信(WeChat)のユーザー数は10.4億人となり、中国国内のユーザーは9.02億人になりました。毎日380億件のメッセージが微信(WeChat)に通じて送信されます。そのユーザーは小学生から老人の方々まで、様々な年齢層・職業の人に使われています。
ここまで普及した要因として、微信(WeChat)はチャット機能だけでなく、「(朋友圈)」(Facebookのタイムラインのような機能)、「公众号(公式アカウント)」、振込、出前の注文、自転車のレンタル、チケットの購入など、多岐に渡る機能が備えているからです。その中で、特に注目すべき広告チャネルは、「(朋友圈)」、「公众号(公式アカウント)」という2つの機能です。
微信(WeChat)の月間利用者数と増加量の推移
これらの膨大なユーザーを持つアプリに対して行うプロモーション方法は大きく分けて2つあります。
1つ目はアカウントを開設後、一定の費用を支払い、それを特定のユーザーにプッシュ通知を送信をします。しかし、このような強制的な通知手段を好まないユーザーも多くいます。
2つ目は、「网红(ネットセレブ)によるさりげないアピール」という新たな広告手法です。インフルエンサーたちは数万~数十万のフォロワーを持ち、自分のライフスタイルを発信しています。クライアントはネットセレブに依頼して、彼らの日常の投稿に上手に溶け込んで広告を出すことができます。例えば、化粧品を告知したい場合はメークで影響力を持っているネットセレブ、観光地を宣伝したいときは旅行系のネットセレブに依頼して、一定的な費用を支払い、その有名人はさりげなくクライアントの商品、サービスを発信します。日本ではあまり炎上してしまいかねない手法ですが、中国ではKOLマーケティングと呼ばれるほど主流な広告手段であり、ユーザーに広告を意識させないのが狙いです。
4. エンタメアプリに広告を挿入
昨今日本でもCMが流れている動画ソーシャルアプリ、抖音(TikTok)、ゲームアプリなどのエンターテインメントアプリに広告を投入する手法もあります。
動画投稿・生中継アプリ抖音(TikTok)
スマホの支払いから広告へ誘導、特定のユーザーにプッシュ通知
日本ではかつて、Webサイトから店舗へ誘導するO2O広告(オンライン to オフライン)が話題になりました。ところが、中国ではWebサイトよりもスマホを利用する割合が多いため、スマホを所有している前提で広告の動線が設計されています。起点が実店舗、いわゆる「リアル」で、そこから携帯端末に誘導し広告を通知する手法です。
1. 無料WiFiからWebサイトへ誘導
中国でWiFiを使うユーザーと携帯端末でインターネットに接続するユーザーの割合
インターネットサービスプロバイダー、IPass社の調査報告によると、中国の無料WiFi、ホットスポットの数は490万を超え、世界では4位でランクインしています。広告での利用方法として、ネット接続と引き換えに広告閲覧を促すようにWiFiの運営者に依頼することができます。接続完了後、自動的にWebサイトへ誘導させることもできます。
また、一部のWiFiには微信(WeChat)でのアクセスを条件としていることから、接続完了と同時に、特定の微信(WeChat)のアカウント・文章・画像をプッシュ通知することができます。
2. 流行りのエンターテイメント機械からスマホへプッシュ広告
中国で流行っているミニカラオケボックス
中国では近年、携帯端末での支払いが主流となり、現在中国で使われているのは「微信支付(WeChatPay)と「支付宝(Alipay)」という2つの支払いサービスです。実は、この2つのサービスも、広告発信につながっています。
ショッピングセンターに設置されているUFOキャッチャー
例えば、中国のデパート・エンターテインメント施設・公共施設には主にUFOキャッチャー、KTV(カラオケ)ボックス、プリクラ、写真プリンター、ジュース製造機などの、短時間で遊べるエンターテインメント系の機械が設置されていて、支払い時には必ず「微信支付(WeChatPay)」もしくは「支付宝(Alipay)」を使う必要があります。
作りたてのジュースが飲めるジュース製造機
携帯端末の支払いサービスを使用することで、広告主は、その利用者の携帯に接続できるということになります。運営者に対し、ある属性のユーザーに広告のプッシュ通知を設定し、該当ユーザーが出現した際にその広告を微信(WeChat)もしくは支付宝(Alipay)アプリにプッシュ通知します。
まとめ
このように、中国ではインターネット広告だけでなく、リアルから個人のスマホへ広告する仕組みが確立されて来ています。自社のWeChat公式アカウントを持つことで、検索エンジン連動型広告のように検索されるのを待つだけでなく、見て欲しいユーザーに積極的にアプローチしていくことが可能です。