日本の就活は世界の非常識 中国人の就職活動はこれからの日本の標準になる?!
「就職活動」という言葉からあなたは何をイメージするだろうか?これまで自由を謳歌してきた学生たちが、まるで呼吸を合わせたかのようにリクナビに登録し、業界研究を始め、エントリーシートを書き、スーツをまとい説明会へ足を運ぶ。
と、これは日本にだけ見られる特有の光景であることは意外と知られていない。日本で勉強している中国人留学生と話すと、彼らが日本の就職活動に戸惑いを感じていることが分かる。
本記事では、中国の就職活動についてスポットを当て、彼らがいつ、どのような方法で仕事を探し、社会へ巣立っていくのか、そのプロセスについて書いていきたい。
中国企業には「ポテンシャル採用」がない
まず中国では、日本のように大学3年生になったらインターンを始め、4年生で内定をもらうといった決められたスケジュールはない。
もちろん大学生活を送りながら働きたい会社に目星を付けるという点は一緒なのだが、そのための活動の仕方やスタート時期は、ほとんど学生個人に委ねられていることが大きな違いだ。
中国では一般的に、大学4年間をかけて色々な活動に取り組み、経験値を増やしていく。その中で、大学構内で開催されるジョブフェアやインターネットでの情報を元に、どんな仕事に就くのか自分の適性を見定めていくのだ。
日本と中国の就活の5つの違い
1.スタート時期
中国の人材プラットフォームZhaopinによると、本格的に仕事探しを開始する中国の学生は約40%が大学3年生だと回答し、31%が大学4年生であった。
それなら日本の大学生と同時期に見えるが、中国の学生は大学1年、2年生から水面下で準備を始めていて、3年生からスタートダッシュが切れるように「助走」している点が大きな違いだ。
日本企業側から見ると、応募してくる学生は就業経験が少ない前提で採用活動を進めている。そのため実績が伴わなくても「意欲」や「人物」を評価する「ポテンシャル採用」があるが、中国ではそういった考え方はない。学生がこれまで積んできた就業経験をベースに出した実績がアピールポイントとなる。
2.大手ナビサイト不在
中国には日本の「リクナビ」や「マイナビ」に替わるような大手の就職活動のナビサイトはない。日本のように標準化はされていないものの、ここでは学生が企業情報を収集するチャネルとして5つ媒体を紹介したい。
サイト名 | 智联招聘(ジャオピン求人) |
サイト | https://www.zhaopin.com/ |
ユーザー数 | 1.4億人 |
登録企業社数 | 400万社 |
サービス開始時期 | 1994年創立 |
紹介 | 強大なデータベースをもとに、AIとビッグデータを活用し、人材と職場をうまく繋げることを得意とする |
サイト名 | 大街网(メインストリート) |
サイト | https://www.dajie.com/ |
ユーザー数 | 3600万人 |
登録企業社数 | 140万社 |
サービス開始時期 | 2008年創立 |
紹介 | 実名制を重視とするサイト。企業とユーザー同士のコミュニケーションを活性化し、優秀な人材と職場を紹介することを重視する |
サイト名 | 応届生求職网 (新卒求人検索オンライン) |
サイト | http://www.yingjiesheng.com/ |
ユーザー数 | 不明 |
登録企業社数 | 不明 |
サービス開始時期 | 2005年創立 |
紹介 | 新卒向けの就活サイト。インターンや大学内での就職イベントも多く開催している。企業からスカウトするのではなく学生から企業にコンタクトを取る方式。2015年、中国最大の仕事探しサイト、51job.comに買収された。 |
サイト名 | 职业蛙(キャリアフロッグ) |
サイト | https://careerfrog.com.cn/ |
ユーザー数 | 約1万 |
登録企業社数 | 1300社と300大学(国内外) |
サービス開始時期 | 2004年創立 |
紹介 | 就職サイトというよりは、大学生の就職をサポートするエージェント的な役割を担う。大学生に就職に関するアドバイスや自己分析などをサポート、同時にこれらの人材を各企業に紹介する。留学生を主なユーザーとする傾向がある |
サイト名 | 海归求职网(帰国者求人サイト) |
サイト | http://haigui.resumechina.cn/ |
ユーザー数 | 約10万人 |
登録企業社数 | 不明 |
サービス開始時期 | 2009年創立 |
紹介 | こちらも大学生の就職をサポートするエージェント的な立ち位置。大学生に就職に関するアドバイスや自己分析などを支援、同時にこれらの人材を各企業に紹介する。留学生を主なターゲットとしている |
3.ジョブフェアは大学構内で
日本での就職活動は、東京国際フォーラムなど展示会の会場を企業が借りて、学生が来場するというスタイルが主流だ。中国では、各大学の構内で行われることが多い。そのため、企業は募集する職種に応じて出展する大学を選び、学生を探していく。
理系の学生が欲しい企業は、理工大学を選び出向いていく。企業は大学学部との相性を精査できるため、採用活動は効率的と言える。そのため、一方的な企業説明会というよりは、直接リクルートできる機会として位置付けられ、学生はその場で内定をもらうことも可能だ。
4.直接応募のスタイルがスタンダード
大手は、採用サイトを自社で構築し学生からのエントリーを直接を募集する仕組みを導入している会社もある。あるいは、メールで履歴書を受け付けている企業も多数だ。中国の学生は、山のような履歴書に埋もれずに、人事担当者が思わず見てしまうような履歴書を提出することが大事だ。
このように、応募する時期や方法に決まった形式がない中で、学生は必要な情報を見つけ、適切な方法でエントリーする能力が求められており、その活動における能力も見定められている。
書類選考を通過した学生は、1回もしくは複数回の面接を経て最終的に仕事が決まるという流れが中国における就職活動のおおまかな流れだ。
5.実力主義
中国の企業が採用活動で学生に求めている資質は、日本とは大きく異なる。日本での集団面接やSPIのように一般常識に関するテストは、中国ではあまり行われていない。
その代わりに、中国の就活は完全に「実力主義」である。もちろん優秀な大学に入学し、高学歴であるほど有利ではあるが、それだけでは十分ではない。
これまでの学生生活の成績や部活動、生徒会の経験、海外留学、大学4年間のインターンシップ、その中で出した成果、専攻で学んだことや研究結果、これらの総合力が全て問われるのだ。日本でいう「ポテンシャル採用」の考え方は中国では存在せず、「即戦力になれる人材」をアピールし、企業はそれを求めている。
そのため、学生時代のインターンシップは本格的だ。数日間の仕事体験にとどまらず、正社員と同じ業務を任されるのが通常だ。そこで正しく経験を積み上げ、実績として語れるレベルまで高めることで、人事の目を引くチャンスを得ることが出来る。
さらに、インターンシップだけではなく、例えば個人メディアを運営しそこで出した成果や、自分で起業をした経験などもプラスアルファとして競争を勝ち抜く大きな切り札になっている。
就業景気指数で見る就職しやすい業界は?
仲介サービス業が最も就職しやすい
「智聯招聘」が発表した『2019年卒業生就業市場景気報告』によると、2019年卒業生就業景気指数の1位は仲介サービス業だった。広告代理店や人材紹介、不動産仲介に代表される企業と消費者の間に立って支援する業務を指している。2番目に教育業界、製薬業界、建設業界、IT業界と続いている。
統計によると、この業種の景気指数は昨年の6.23から今年は9.82に上昇した。しかし、卒業生の仲介サービス業就職に対する受入度は高くない点に注目したい。報告書によると、就職しやすいことが人気につながる訳ではないため、履歴書を送った卒業生の数は前年比で減少したという数字も出ている。
ランク | 就職景気の良い業界 | 2019年CIER指数 | 2018年CIER指数 | 数値変化 |
---|---|---|---|---|
1 | 仲介サービス業 | 9.82 | 6.23 | +3.59 |
2 | 教育業界 | 4.26 | 5.97 | -1.71 |
3 | 医療業界 | 3.26 | 3.18 | +0.08 |
4 | 建設業界 | 2.86 | 3.38 | -0.52 |
5 | インターネット業界 | 2.54 | 3.35 | -0.81 |
6 | 外注業 | 1.97 | 1.85 | +0.13 |
7 | 士業(税務・会計・法律) | 1.89 | 1.86 | +0.03 |
8 | 保険業 | 1.77 | 2.18 | -0.41 |
9 | ソフトウェア | 1.70 | 1.51 | +0.19 |
10 | 証券業界 | 1.68 | 0.96 | +*0.72 |
http://japanese.china.org.cn/life/2018-12/22/content_74285214.htm
今は国営企業より民間企業を選ぶ学生がほとんどで、上場企業かどうかも学生が関心を持つポイントだ。
就職したい企業
中国の就活 4つの条件
1.「資格」を取る
中国では、学部や専攻にかかわらずさまざまな資格を取るのが大学4年間のとても重要なミッションの1つだ。多くの大学生がまず取得を目指すのがCET(College English Test)「全国大学英語4級、6級考試」という大学生だけが受験できる英語試験だ。試験は、4級試験と6級試験の2種類で、CET-4あるいはCET-6と表記される。
各専攻に対応した資格もさまざまで、例えば会計専攻の学生は財務会計の資格の取得を目指す。ほかにも、例えば近年で受験者数が増加している「日本語能力試験(JLPT)」など語学力を証明する試験や、「教師資格證書(教員免許)」、「計算機等級證書(パソコン応用資格)」「普通话等级证书(普通語試験)」なども人気があり、学生たちは自分の能力を証明するために活用している。
2.「資格」を取る
中国の履歴書は日本のような雛形はない。なぜなら、自分のこれまでのキャリアや経験を履歴書というフォーマットの中で表現することが、企業が学生を査定する大事な判断材料だからである。
例えば、学生時代に積んできた経験が履歴書というプレゼン資料を通して、他者の視点がキチンと反映されているかどうかは、ビジネスを行ううえで欠かせない資質となる。
また、学生たちは履歴書のデザインにも力を入れている。決まったフォームがなく自由度が高いため、学生たちは自分なりにアレンジし、働きたい職業に合わせたトーン&マナーを調整する。
例えば法学部の学生は少し厳かな雰囲気を出したフォーマットで作成し、メディア系学部の学生は最新のデザイトレンドを履歴書に入れたりと、自分の個性と能力を効果的に表現することが重要視されている。
3.インターンシップをする
中国の就活ではインターンシップの経験が非常に重要視されている。それもただの体験ではなく、「成果を出しているか」が重要だ。
例えばインターンで働いた会社で運用したメディアで獲得したフォロワー数や、プログラミングで実装した成果物など目に見える成果を出して初めて価値となる。
ちなみにインターンという立場でも正社員と同じ仕事量をこなすのが一般的であるが、給料は日給100元(1,500円)で少ないのではという論争も生まれてきている。
4.アピールできる経験を積む
中国の学生は「他人と違う一面」をアピールしなければならない。企業が多くの学生の中からあなたを選ぶ理由を作ること大事だ。そのため、学生たちはインターンだけではなく、生徒会や部活動での表彰、留学経験、研究内容、起業経験なども重視されている。
就職か大学院進学か
2019年「智聯招聘」が出した調査によると、80%の学生は学部卒業後、就職することを選んでいる。しかし実際には、「大学院進学」という進路を考えている学生も多く、共通して悩むポイントのようだ。
なぜなら、学歴が重視されている中国で大学院進学はごく一般的なことなのだ。
しかし大学院統一試験がある中国では、高考ほどではないにせよ受験準備と就職対策を両立できるほど簡単なものではない。
また上位校の受験者数が定員数より遥かに超えている場合は、試験に落ちるリスクも考えなければいけない。そのような背景から、多くの学生は大学院受験するか直接就職するかがとても悩むのだ。
また、留学経験も重視されるため、大学院で海外留学を考える学生もいる。大学院が卒業までに3年かかる中国と比べて、海外では日本のように2年、イギリスのように1年で済んでしまう国もあることから、所用時間、就職でのアピールポイントなど総合的に加味したうえで、最近では多くの学生が海外の大学院を狙う傾向にある。
まとめ
日本と中国の就職活動における決定的な違いは、徹底的な実力主義と言えるだろう。日本では研修制度や人材育成が重要視されており一概にはどちらが良いかとは言えないが、今後日本企業が中国の学生を採用していく際には、中国での常識を配慮しておくとより円滑な採用活動が進むのではないだろうか。
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