日本製品が海外で人気であり続けるための「方針改革」
海外メーカーが台頭する昨今、日本の製造業はどこへ向かうべきだろうか。そもそも信頼の代名詞であるメイドインジャパンのルーツとは。
今こそ原点回帰し、海外で人気のある日本製品を見直すことでこれからの日本ブランドのビジョンを考えたい。
日本人の職人的な「モノへのこだわり」
日本が世界に誇る技能、それは「職人気質」であること。
自らの技術に誇りを持ち、隅々までこだわり抜き、実直に誠意溢れる仕事を心がける精神性ではないだろうか。故に「日本製品」は、製品の検品精度が高く、不良品が少ない、高性能、信頼性が高いというイメージがある。モノの本質をとらえ、精密に作り上げ、こだわり抜く「目」があり、量産化されたモノでも質が劣ることはない。
わびさびという美意識とクオリティ
例えば、海外でも評価されている「わびさび」という日本独自の美意識だが、これは日本が中国の進んだ文化を学び、茶文化として取り入れ大成したものである。
茶席で用いられる道具には、中国で焼かれた「唐物」、朝鮮半島で焼かれた「高麗物」、日本で焼かれた「和物」があり、中国の焼き物の美意識を時代ごとに取り入れつつ、各時代の権力者の美意識に添う道具を作り続けました。安土桃山時代に千利休(1522 – 1591)によって侘び茶が大成され、「茶の湯」という日本独自の文化となった。
この美意識へのこだわりが「クオリティ」の現れであり、「日本製品」が評価される所以である。では、このクオリティの考え方は、近代日本のプロダクトデザインではどのように培われたのだろうか。一人のデザイナーを例に考えてみよう。
海外で評価された日本人・工業デザイナーから学ぶこと
日本の工業デザインのパイオニアと呼ばれる柳宗理(やなぎそうり・1915-2011)は日本のデザインを学ぶにあたって欠かせない人物である。代表作は、天童木工「バタフライスツール」や、「ステンレスカトラリー」などがあり、ニューヨーク近代美術館のコレクションに選定され、今もなお販売されている。
彼の生み出したプロダクトはミニマルでシンプル、フォルムが美しく、和にも洋にも合わせやすい、日常に溶け込む実用性のあるデザインだ。
柳宗理は日々の暮らしを豊かにしながら長く使い続けられるようにと、使い手の立場に立ってデザインすることで、数々の名品を生み出してきた。
柳宗理の父、柳宗悦(やなぎ むねよし)は、民藝運動の創始者であり、生活道具として使われていた民藝品に新たな価値を見出し、「用の美」と称えた。
柳宗理はそのルーツから、プロダクトは量産品であっても実用的で、流行り廃れに振り回されず、何十年も使い続けられるようデザインされている。
モノの本質を削ぎ落とし、温かみを感じる製品を作り上げていく。「用の美」を感じる日本製品は使い続けることで、その心地よさを感じることができる。
デザインとは生み出すだけの思想ではない
彼のデザインについて、原 研哉氏の書籍「日本のデザイン」においてこう語られている。
デザインとは、スタイリングではない。モノの形を計画的・意識的に作る行為は確かにデザインだが、それだけではない。デザインとは生み出すだけの思想ではなく、ものを介して暮らしや環境の本質を考える生活の思想でもある。したがって、作ると同時に、気付くということの中にもデザインの本意がある。
原 研哉 – 書籍「日本のデザイン」より
一方、近代の日本製品が最終的に海外の製品に飲み込まれた例をあげたい。より最近のプロダクトについて考えていくと、現代人の必需品となった携帯電話にも、プロダクトデザインの美意識への変化がうかがえる。
なぜ、日本の携帯電話は海外で使われなかったのか
携帯電話市場において、「日本製品」は「付け足しの考え方」で、今から約15年前、日本ではガラパゴス携帯電話「通称ガラケー」が携帯電話市場を占めていた。
日本の携帯電話は「カメラ、ネットも使える多機能携帯電話」という考え方で製品化が続けられ、電話というプロダクトに「機能付け足し」をしていった。端末も通信方式も日本独自に開発されたことにより、仕様の制限の中、ほぼ同質的な競争化となり結果、絶対的な安定志向の中、本質の競争と進化がなく似たような製品が溢れた。
デザインがシンプル、アプリケーションが日々進化するiPhone
そこに、2008年にiPhoneが日本で発売。一気にインターネットを自在に使えるスマートフォンに淘汰されていった。iPhoneやアンドロイドなどのスマートフォンは、「音声通話ができる超小型コンピューターを開発する」というアプローチで製品化がされている。
見た目はシンプルで、手にした感触は無駄がなく美しい。使い方も感覚的。ソフトのアプリケーションが日々競争し、進化し、ユーザーはこれまでに考えたことのない面白い体験をすることができる。結果、日本のガラケーは淘汰され、スマートフォン市場へと変化した。
目指すは日本市場のみか、世界市場か
独自開発のみの市場は、独占的で非常に優れている反面、海外の標準規格と大きく異なるため世界市場では売りにくく、国際競争力が低いといわれている。
携帯電話市場においては、日本市場のみを対象にした戦いと、世界市場を対象にした戦い方をしている海外勢とで勝敗が決まったように感じる。日本の人口の減少、ターゲットユーザー規模が縮小していく中、世界を対象とする方向に切り替えができなかった結果と考えられる。
自社だけで全てを開発しようとした日本の考え方と、オープンに他社と共有化して、作り上げるネットワーク型ビジネスモデルの海外勢とでは出来上がったモノの性能は大きな差がついたのではないだろうか。時代ごとの市場とモノづくりの本質は、常に大きな見直しが必要であることがわかる。
洗練され、長く息づく「日本製品」の強みの再確認
長い年月でも愛される日本製品はシンプルで洗練されている。洗練された美意識のプロダクトは経年劣化することなく、どんな年代にも愛されて受け継がれていく。
日本は時に改革的に何かを全て変えようとする時があるが、その反面、良いものを継承しようとする思考がある。古いモノと新しいモノを組み合わせ、さらに磨きをかけた新しい良いモノを作り出す。付け加えては無駄を省き、洗練させていく。なるべく最小限にする「ミニマル」的な作業を繰り返す。
日本の会社は海外に比べて前例踏襲主義な傾向がある。しかし、思考を停止せず、市場を見直し、どのようなターゲットにそのモノを使ってもらうか。現在のようにインターネットで繋がる時代においては、独自の考え方に縛られず、戦略の見直しは常に必要だ。
海外市場において存在をアピールしなければ、理解されることはない
日本製品は非常に優れている。しかし、日本人は古来より「秘するは花」というように、多くを語らず察してもらうのを待つ考え方がある。
海外において存在をアピールしなければ、理解されることはない。誰でも知らない相手を評価することはないだろう。待つだけではなく、攻める。日本製品の強みを理解して、受け身から攻めのアプローチに転換できた時、手を抜かず目を光らせる職人気質な「日本製品」は、より世界で強みを発揮できるのではないだろうか。
ブルームストリートの海外市場開拓サービス
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