ユニクロの海外進出と、世界を熱狂させる「もう1つの日本企業」
ユニクロは、海外進出の分野において最も成功したアパレルブランドのひとつだ。TOYOTAやSonyなど技術力勝負の自動車・家電メーカーが日本ブランドランキングの上位を占める中、アパレル部門で唯一トップ10入りの常連となっている。
H&MやZaraなどのファストファッションブランドがひしめく中、ユニクロはどんな戦略で世界と戦っているのだろう。これから海外進出する企業が狙うべき客層はどこか。
同じく海外で人気を博し、同じような価格帯の製造小売業である無印良品(MUJI)と比較して考えた。
データで見るユニクロの海外進出
企業名 | 株式会社ファーストリテイリング |
国内店舗数 | 814店舗 |
海外店舗数 | 1439店舗 |
展開国・地域数 | 24の国・地域 |
海外参入年 | 2001年 |
「大量出店戦略」を実施し、アジアを中心とした世界中に店舗数を伸ばしている。日本国内よりも海外の方が店舗数・売上ともに上回っている。
ユニクロ(UNIQLO)のヨーロッパでの立ち位置は?
ある日、とあることに気がついた。
私が住むオランダに、ユニクロ(UNIQLO)一号店であるアムステルダム店ができた2018年、現地日本人界隈はユニクロオープンに沸いたが、オランダ人の友人や同僚はそのことを誰も話題にしていない。オープンして数年経過しても、他のヨーロッパの国で生活していた時も同様、ユニクロの製品を買う人は居ても、どうもファンというわけではなさそうだ。
海外進出が成功しているイメージが強いユニクロだが、ヨーロッパでの人気はいかに。
無印良品(MUJI)の海外人気
いっぽう、こんなエピソードがある。
私がミラノに旅行に行くと会社で自慢していた時の話だ。イタリア人のビデオクリエーターである同僚から、こんなリクエストがあった。
「MUJIのペンを20本、ノートを10冊買ってきてほしい」
型番などの詳細な注文付きである。
イタリアに住んでいた当時、家具や家電は全て無印良品(MUJI)で揃えていたとのこと。今も文房具は無印良品(MUJI)で統一しており、日頃のデザイン業務は無印良品(MUJI)のペンとノートで行いたいのだと言う。
それからしばらくして、ヨーロッパにはMUJIの熱狂的なファンが多いということがわかった。北欧のそれとも違う、日本独特なミニマルなデザインに惹かれているようである。
取り扱っている商品がそもそも違うのだが、ユニクロへの関心具合と比べると、熱量の差を感じる。
データでみる無印良品(MUJI)の海外進出
企業名 | 株式会社良品計画 |
国内店舗数 | 479店舗 |
海外店舗数 | 550店舗 |
展開国・地域数 | 31の国・地域 |
海外参入年 | 1991年 |
海外進出においてはユニクロより歴史が長い。無印良品(MUJI)は、1991年に一度海外に進出するが、失敗。大赤字時代を経て2002年度に黒字に転じた。
ファーストリテイリンググループの圧倒的な経済力により、「大量出店戦略」を実施しているユニクロに比べ、無印良品(MUJI)の海外店舗数はユニクロの約3分の1と少ないが、より広い地域に展開している。
ユニクロと同じく、日本国内よりも海外の方が店舗数が上回っている。
後述するが、ヨガや禅ブームの後押しにより、無印良品(MUJI)の静寂なブランド観に世界が追いついてきたのかもしれない。
ユニクロvs無印良品(MUJI)
機能性や品質の良さにおいては2つのブランド共に同等だと感じる。
価格においても、人件費や物価・消費税が各国で異なる為、日本の価格とは差があるが、両者とも同じような価格帯である。
では両者の違いは何なのか。
進出国の違い
ユニクロ(UNIQLO)と無印良品(MUJI)の出店地域割合
UNIQLO | MUJI | |
---|---|---|
東アジア | 71.51% | 73.43% |
南アジア | 0.21% | 0.76% |
東南アジア | 15.43% | 9.49% |
中東 | 0 | 3.80% |
東ヨーロッパ | 0 | 0.19% |
北ヨーロッパ | 0.21% | 0.38% |
南ヨーロッパ | 0.35% | 2.28% |
西ヨーロッパ | 3.47% | 5.12% |
北アメリカ | 4.31% | 3.61% |
オセアニア | 1.60% | 0.95% |
ロシア | 2.92% | 0 |
ユニクロは東アジアに次いで、東南アジアを中心に展開しているのに対し、無印良品(MUJI)はロシアを除くヨーロッパや中東にも積極的に進出し、文化的に日本と差が大きい国にも受け入れられている。
マーケティング戦略の違い
日本では、どちらも「良質な商品を大衆的な価格で提供する」というマーケティング戦略で、日本全土に展開している。
いっぽう海外では、無印良品(MUJI)は、禅やミニマリズムなど日本独自の文化を特に強く打ち出しているように見える。
ここで面白い対談記事をご紹介しよう。
2008年に書かれた「欧州進出のノウハウ-Uniqlo&Muji対談]というユニクロと無印良品の対談記事だ。
ユニクロは、このころから「良質な商品を大衆的な価格で提供」というスタンスは変えていないようだが、無印良品(MUJI)はどこかのタイミングで日本デザイン独自の価値に気がつき、方向転換したのかもしれない。
その結果、ニューヨーク近代美術館(MoMA)でデザイン性が高く評価され、MoMAデザインストアーで無印良品(MUJI)の商品が取り扱われ、益々ブランド価値が高まった。
ユニクロと無印良品(MUJI)は、ブランドが打ち出す方向性や世界観の違いにより、ターゲット属性や売れ方に差がついた。
決め手はアジア相手か、それ以外か
では海外進出時の方向性をどのように決めるのが良いか。
- 商品が日本の文化を取り入れたものなのか、西洋の文化を取り入れたものなのか
- 進出国にとって、日本文化が近いのか遠いのか
ここまでの考察から考えると、上記の判断基準をもって決めるのが妥当かと思う。
欧米の文化を真似した商品は欧米市場で目立つことは難しく、逆もまた然りだと考えられる。
海外ユニクロの約8割はアジアで展開
先にも述べたように、ユニクロのけん引役は中国大陸を中心とした東アジアや東南アジアだ。子会社まで考えると、海外ユニクロ事業の連結子会社の約83%はアジアにある。
2001年、ユニクロはイギリス・ロンドンに海外初進出をした。一時は21店舗まで拡大したものの、巨額の赤字を計上し、一時はイギリスからの撤退を余儀なくされた。
欧米の顧客への受けはいまいちなのかもしれない。
高まる禅への注目
ここオランダでも、侘び寂び(WABI-SABI)、生き甲斐(IKIGAI)、一期一会(ICHIGO-ICHIE)など、日本独自の文化に関する書籍が増え、注目が高まっていることがことが窺える。
デンマークのHYUGGEやLykke、スウェーデンのLagomなどと並び、「幸せのアプローチ」のひとつとして紹介されていることが多い。
特に「侘び寂び」含む「禅(ZEN)」という言葉はトレンド化しており、本来のインドで生まれの仏教の宗派としての禅とは異なる意味で「ZENを取り入れたデザイン」のように、デザインテイストの一つのような使われ方をすることが多い。
先ほどの書籍の写真のような、淡く静かなトーン&マナーをイメージしてもらえるとわかりやすいかと思う。
日本人だからこそ表現できるミニマリズム
「徹底的にムダを省いて本来の自分に立ち返る」のが禅の思想。
表現が難しいが、日本のミニマルデザインは、禅の思想が引き出した「引き算の美」や「不足の美」を根底に、無駄を省いてシンプルな中に中性的な静けさを感じる。北欧のミニマルデザインともまた違った、真似し難い世界観。日本人が生まれながらに持ち得た普遍的な感覚だ。
前回の記事でご紹介した柳宗理のバタフライスツールもその一例で、時代を超えて世界中で愛されている。
密かな日本製品人気
世界が日本的ミニマリズムを求める一方、日本側はまだその可能性に気がつかず、輸出が追いついていない印象がある。
一例として、日本のメーカーが輸出していない日本の製品を、海外の方が輸入販売している例をご紹介しよう。
カネコ小兵製陶所やYOSHIDA POTTERYの商品を取り扱っている。
Instagramのフォロワーも30K超を獲得(2021年2月現在)し、日本の焼き物のポテンシャルが窺える。
この他にも正しい方向でブランディングやPRを行えば、海外で人気が出るであろう日本の製品は山ほど存在する。
世界にはチャンスが溢れている
海外進出の戦略を考えるにあたり大事なこと、それは自社の強みをしっかり見定め、どのローカル市場とマッチするのかを見極めることだ。
企業規模や商品のタイプにもよるが、それが日本独自のものであるのなら、世界競争において日本文化の個性をぜひ強く打ち出して欲しい。日本人にしか出せない唯一無二の個性を打ち出すことで、世界、特に禅がトレンド化している国においては、十分伸び代があると感じる。
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