イマの中国が分かる<ruby>微信<rt>ウェイシン</rt></ruby>(<ruby>WeChat<rt>ウィーチャット</rt></ruby>) 3つの常識
微信(WeChat, 以下微信と呼ぶ)は中国最大手IT企業、テンセントが運営している総合コミュニケーションアプリです。
テンセントが発表した2018年度の報告書によると、微信とWeChat(外国人向け)のユーザー数は世界で10億4,000万人に達し、中国国内のユーザーは9億200万人になりました。毎日約、380億件のメッセージが微信上で送信され、老若男女に使われています。日本でも少しずつ普及し始めた微信ですが、本記事では、中国でのリアルな活用事例を紹介し、訪日観光客や訪日留学生を迎える日本でのヒントになればと思います。
中国の常識1:普及店舗数は30万を超える微信支付(WeChat Pay)
微信には、微信支付(以下WeChat Payと呼ぶ)と呼ばれる決済サービスがあり、テンセントが2013年頃にリリースしました。WeChat Payは当初、ユーザー同士の送金や「紅包(電子版お年玉)」でサービスを開始し、その後、配車サービスの決済、自販機の決済、店舗決済、デパートでの決済と徐々にサービス領域を拡大し、同時にセキュリティの課題を解消していきました。今では30万以上の店舗に普及し、誰もが使う決済サービスとなっています。
I Scan You & You scan Me
微信の「財布」機能はクレジットカードもしくはデビットカード情報を登録すればすぐに使えるようになります。ユーザーはWeChat Payで自動的に生成されたQRコードをお店の人に提示し、スキャンしてもらうだけで支払いが完了します。公式認証を得ていない小さな店舗はユーザーにお店のQRコードをスキャンしてもらい、決済金額を入力することでお店のアカウントに直接振り込むという方法もあります。中国には貯蓄はあっても給与がクレジットカードの審査基準に満たない中所得者が多く存在する一方、WeChat Payは銀行口座があれば誰でも使うことが出来ます。そして、スマホさえ携帯していればわざわざ財布を持ち運ばなくて済むというライフスタイルが、合理的でミニマリズムを追求する中国人の性格に合うのです。
WeChat Payは①テンセント、②導入企業、そして③サービスサポーターの3事業者から構成されています。WeChat Pay(テンセント)はプラットフォームを提供し、運営とサポートを大勢のサービスサポーター人員に任せ、そして企業は使用手数料を両者に支払っています。
WeChat Payのサービスを申し込む条件
- 公式アカウント(サービスカウントタイプ)の取得
- 微信の公式認証を通過
この条件を満たすことが出来れば、必要書類を不備なく提出し契約が可能となります。店舗は対応するスキャナーを用意し、もしくお客様向けの振り込みQRコードをプリントアウトし掲示すれば使えるようになります。店舗は支払いプラットフォームを活用することで収入の管理や客層の確認、クーポン配布や宣伝をすることもできます。お店にとっても、非常に便利なシステムです。
また、大眾點評(中国版ホットペッパー)などの大型サービスと連携する飲食店も多くあります。例えば、レストランではレジで会計する必要がなくなり、お客様は各テーブルに貼ってあるQRコードをスキャンすることで、金額が伝票に反映され自動的に消費者の支払い画面に表示されます。
現在では、約30万店舗がこのシステムを導入し活用しています。最も多い業態は、飲食店で8万店に普及しています。コンビニや自販機、スーパーなど小売業が中心ですが、ホテルでの宿泊費用の支払いでも活用されています。
スマホ決済を導入するメリットは、クレジットカード決済の待ち時間が不要となり、支払いの効率が上がる点です。また、偽札に対する心配が払拭されるのも、導入企業にとっては大きなメリットです。WeChat Payが活用されている今では、お財布を持たずに出かける中国人がますます増えています。それどころか、現金を受け付けない店舗さえ出てくるようになりました。
中国の常識2:病院予約・公共料金支払いもアプリで完結
中国人ユーザーにとって、微信はメッセージアプリだけではなく、日常生活をオフラインからも総合的にサポートするシステムが構築されています。チャット機能以外には、主に「公式サービス」と「サードパーティーサービス」に分類されます。
微信の公式サービスメニュー
*日本語に訳しています
公共料金の支払いサービス
水道代・電気代などは、プリペイドカードを買う必要がなくなり、スマホで支払えるようになりました。
クレジットカード返済
微信にチャージした残額を使って直接クレジットカードの支払いを返済することができます。
携帯料金の支払い
中国の携帯料金は日本の交通系機関の支払いと同様に、前払い方式で行われます。通信業者は月額費用を事前に課金された金額から回収します。以前は、プリペイドカードを買ってチャージするのが主流でしたが、今では、携帯料金のチャージやデータ量の追加はすべてスマホで支払えるようになりました。
医療機関の予約
医療機関予約は、ほぼ全ての国立・私立病院と連携していて、日時指定から医者の指定まで、簡単なオンライン操作だけでも予約できます。一般診療・身体検査・ワクチン接種はすべてスマホで予約できます
カーナビ
交通状況のリアルタイムデータ
中国では、カーナビよりもスマホのナビアプリが主流です。微信では、交通状況のリアルタイムデータを提供しています。ユーザーはそのデータを確認しながら渋滞を回避して走行することが可能です。それ以外に、バスやタクシー、夜行バスの状況確認、乗換案内などもできます。
このように、公式サービスは公共サービスに直接関わるものが多いです。以前は複雑な手続きが必要だった予約も、今では微信を使えば自宅でできます。消費者にとっては非常に便利なシステムです。
中国の常識3:アプリからサービス中心に変化
微信では、様々なサードパーティーサービスと連携を図り、ユーザーが微信内部で多様な機能を使えるようにしています。例えば、微信が「美团外卖」という出前サービスと連携し提供しているサービスがあります。美团外卖は、多数の提携店舗とデリバリースタッフを抱え、ユーザーはスマホで注文を取り、配送はお店のスタッフではなくすべて専属のスタッフが担当しているため、お店も簡単にオンライン販売ができるようになりました、Uber Eatsに似たサービスです。
微信サードパーティーサービスメニュー
美团外卖には独自のアプリもありますが、微信の内部機能を使えば、ユーザーは別のアプリをダウンロードする手間が省くことが出来ます。
出前サービスと同様、微信は「滴滴打车」「快車」などの配車サービスと連携しています。そして、宅配便、「大眾點評」(ホットペッパー)、ホテル予約、「转转二手」(メルカリ)、ネット通販など、様々なサードパーティーサービスやスモールプログラムも微信と連携を取っており、ユーザーは微信だけをダウンロードしていれば他のアプリをダウンロードせずに継続してサービスを利用することができます。そして、サービス提供側としても微信の既存ユーザーを活用して顧客拡大に務めることが可能です。
小売店にとって、微信は支払い業務を軽減するだけでなく、微信から店舗の宣伝や管理をすることも可能です。そして、サービス連携を通じて、小売店とオンライン店舗をシームレスな管理ができるようになりました。
微信内部で運営している「美团外卖」
今回は、デリバリーサービスを深堀りしていきます。デリバリーサービスが普及する前は、飲食店は来客者を中心にサービスを提供していました。潜在ニーズとして、店舗の外で食事を希望するお客様がいることは認識していましたが、デリバリーサービスを提供するには人手不足でした。
そこで、様々なサードパーティーデリバリーサービスが出現しました。ユーザーは出前サービスで注文をし、飲食店はすぐに注文を受け取ることができます。インターネットで処理を行うことで、電話注文よりもコミュニケーションミスが少なくなります。料理が出来たら、第三者であるデリバリースタッフに渡すだけでOK。デリバリースタッフはお客様の自宅に届けることでサービスが完結する流れとなっています。
飲食店は、デリバリーサービスから大きなメリットを享受しています。店内のスペースを拡張させずに客層を広げ、現状のオペレーションに負荷をかけることもありません。実際、デリバリーと店内で食事をするお客さんのコストはほぼ一緒か、デリバリーの方がコストが下がる可能性すらあります。そのため、飲食店側は導入するデメリットがほぼありません。
同時に、デリバリーサービスの経営を始めた会社も続々と増えました。単独アプリで展開する出前サービスもありますが、今のトレンドは、微信と連携し、微信内部で運営することです。特に、一部のエリアに対しサービスを提供する小規模のデリバリー業者(例えば、学生の多い大学周辺のデリバリーサービスなど)は、微信内で運営することにより、ユーザーにアプリをダウンロードさせる必要がなく、サポートや宣伝の費用が軽減され、同時に簡単にユーザーが獲得できるのです。
出前だけではなく、スーパーの買い出し代行サービスや、深夜のデリバリーサービスまで、出前サービスはまだまだ進化を遂げています。
微信は法人向けサービスを開始
微信はいま、法人向け「企業微信」というアプリを提供しています。一般の微信と同様のチャット機能はもちろん、それ以外企業微信には出勤記録・一斉配信・企業向けのセキュリティシステム・ビデオ会議システム・法人支払いサービスなど、様々な会社仕様の機能があります。
企業微信の公式サイト
一消費者でも、簡単にスモールビジネスをスタートできる
消費活動の多様化により、今では一消費者がデリバリーパートナーになるケースがますます増えています。出前専門の会社はデリバリースタッフを雇用するのが一般的ですが、「跑腿」「代购」などのサービスは一般ユーザーがプラットフォームを通じて直接消費者から注文を受け、消費者が欲しいものを代わりに買い取って、その手数料の受け取ることで収益をあげる新しい職業が生まれています。
中国で大きなシェアを持っているECサイト「淘宝」では出店にあたり莫大な手数料と販促費用が必要ですが、微信をビジネスのハブとして、消費者と直接コミュニケーションを図り、商品を販売する新しい職業―「微商」が誕生し、若者の支持を得ています。
チャットアプリの微信は中国人の日常生活に上手に溶け込み、人々に様々なサービスを提供しています。そして、会社ではなく、一般ユーザーにもたくさんのビジネスチャンスを提供しています。このようなコミュニケーションアプリは、微信を置いて右に出るものはありません。